星ノ宮 地蔵庵
持宝院副住職 馬場 隆法さん・馬場 ひとみさん
事業内容
展示販売ギャラリーの運営
カフェの運営・オーガニック食品等の販売
プロフィール
馬場 隆法(りゅうほう) さん:
行田生まれ行田育ち。若い頃はダンスを生業とする。27歳のとき、京都のお寺で1年間修業し、東京のお寺に3年間勤める。その後、実家のお寺、持宝院の副住職に。2020年11月、奥様のひとみさんと共に「星ノ宮 地蔵庵」をオープン。
馬場 ひとみ さん:
京都府舞鶴市出身。地元の高校卒業後に一般職に就くが、20歳の時に上京する。アパレル関係やカフェの仕事をしていく中でコーヒーに興味を持ち、某コーヒーショップに就職。9年間で店長や本社での社員教育も経験。結婚後、ご主人の実家である行田市へ。「星ノ宮 地蔵庵」では主にカフェを担当する。
——隆法さんはダンサーとして活動されていたのですか?
隆法さん:ダンスは15歳くらいから始めて、独学でブレイクダンスをずっとやっていました。東京で活動はしていましたが、行田に住んでいました。熊谷でもダンススクールの講師をやっていましたね。僕は長男なので、お寺を継ぐことは決まっていたんです。小学校2年生の時に、得度というお坊さんになるための儀式をやりました。だから、大人になってからお寺を継ぐまでの間は少し好きな事をやらせてもらって、ある程度自分の中で区切りがついたので、お寺の修行に行きました。
——ダンスの他に好きだったことや影響を受けたことはありますか?
隆法さん:僕は伯父からとても影響を受けました。伯父はデザインをしていたり、栃木県の益子でお店を営んでいました。すごく可愛がってもらって、当時色々なものを見せてもらい、お店をやりたいと思ったのは伯父の影響が大きいと思います。伯父からカセットテープをもらって、音楽に興味を持ち始め、そこからダンスに入っていったというのもあります。
——ひとみさんはどんな少女時代を?
ひとみさん:私は京都府の舞鶴市で生まれて育ちました。小中学校では、バレーボールやバスケットボールをやっていました。高校は工業高校でコンピューターの勉強をして、卒業後は地元で就職して事務職をしていたんですけど、20歳の時に上京しました。親元を離れて自立したいという気持ちと、東京への憧れもありましたね。
——都内の有名なカフェで働いていたとか?
ひとみさん:東京に出て来て最初、デプトストアという古着とオリジナルの洋服を扱うお店で働いて、そこを辞めた後、次はカフェだな!と思ったんです。ちょうどシアトル系のコーヒーショップが上陸してすぐの時で、カフェブームでした。ブームの火付け役と言われた、山本宇一さんプロデュースのカフェですごく楽しく働いていたんですけど、コーヒーのことをもっと深く勉強したいと思って、某コーヒーショップに入社しました。アルバイトから始めて9年間、最終的には本社で新人教育をしたり、店長もやらせてもらいましたね。コーヒーに関する基礎的なことや接客についても、すごくいい勉強になりました。
——お二人は出会った頃から趣味が一緒でしたか?
隆法さん:僕が東京のお寺に勤めていたときに、共通の友人を通じて知り合いました。最初から趣味が一緒というわけではなかったかな。
ひとみさん:付き合うようになって、伯父のお店に連れていってもらい、素敵だなという共感がありました。多分、当時から好きなものの感覚は一緒だったと思います。
——ご結婚されて、行田に来てみてどうでしたか?
ひとみさん:行田に来ることは、あまり抵抗なかったですね。出会った頃には、東京もそろそろ充分かなと感じていました。行田は山がなくて、平野が広い、空が広い!と驚きました。私の故郷、舞鶴は海と山が結構あるので、そのギャップはすごくありましたよ。用事があればすぐに東京に出られるし、都会の喧騒から外れて、ちょっと安心できる場所みたいな感じでしたね。
昨年の夏には、私の両親が舞鶴から行田に越してきたんです。両親も行田は歩きやすくて、観光も回れると気に入って、私よりも色々なところを開拓して楽しんでいます。
——お寺を継ぐときには、お店をやろうと考えていましたか?
隆法さん:うちは小さいお寺で、今は父が住職を務めています。私のお寺での仕事は、霊園などから頼まれた仕事をしています。お店を始める前は、お寺の仕事の傍らで職人仕事をしていました。ですので、私は檀家さんと触れ合う機会も少なく、不安に感じていた部分もありました。お寺の仕事をしたくても普段の仕事が忙しくなってしまったり。どこかでこの連鎖を断ち切らなきゃという想いもありました。
お店をやりたいというのは、やっぱり伯父の影響が強かったと思います。あとは、ダンスで海外に行った際に、海外からの視点で日本を見た時にお寺の今後を考え、自分の代になった時は、お寺のあり方について新しいアプローチをするべきだと何となくは感じていましたね。だから、京都のお寺で修行していた時には、「お寺の中でお店をやる」と周囲に宣言していたような気がします。
——ひとみさんも賛成でしたか?
ひとみさん:お店をやるということについては、きっと色々できる!と可能性を感じましたね。お寺って皆さん突然いらっしゃるじゃないですか。誰かが留守番をするのなら、勤めに出るよりお寺で何か仕事を作っていくべきかと思いましたし、どうせやるなら好きなことをやりたいと。
——お二人がこちらに来て、すぐお店に向けての動きがあったのですか?
隆法さん:ここに住み始めてから数年後に、私たち夫婦の自宅を建てることになります。自宅に付随してお店のスペースを確保しようという計画はできたのですが、実際に着手するまでに3年以上の年月がかかりました。お寺の敷地というのはお寺の持ち物であって、自分たちの土地ではないんです。お寺の中にある住職の住む場所を庫裡といって、庫裡は各お寺に一つという決まりがあるらしく、既に両親の住む庫裡があるので、庫裡という名目で銀行の融資が受けられないという壁が立ちはだかりました。その時に、うちのお寺を建ててくれた宮大工さんがお寺の中の建物のルールを熟知していて、その宮大工さんのご尽力のおかげでようやく着手まで辿り着きました。何回も心が折れそうになり諦めかけましたけど、結果的にここに建てることができて本当に良かったです。
——建物はご自身で構想されたのですか?
隆法さん:僕がだいたいの構想を図面に描き、それを大工さんにしっかりとした図面で出してもらいました。何しろ予算がなく、設計士も入れられなかったので。 古い建具がいいねなんて言われますけど、普通のサッシって高いんですよ。最初は建物の中の扉がほぼない家でした。住みながらまずトイレの扉を作ってとか…、とにかく自分たちで色々作りましたね。それに、未だに完成してないんです。お風呂のタイルを貼っている途中だったり、時間的にも予算的にも余裕のあるときに少しずつやっています。職人仕事をやっていた経験が結果的に良い方向に繋がったので、無駄なことはないんだなって思いますよね。今もお寺の仕事だけでは厳しいので、住宅のリフォームなどの仕事をやっていますが、この建物が一つのモデルとなって、お仕事の依頼をいただくことも結構あるんです。
——お店作りへのこだわりはありますか?
隆法さん:僕は古いものが好きなので古いものを集めていますが、古いものは昔の企画だったりするので実際には使いづらい面もあります。なので、古いものと新しい生活様式とうまくハイブリッドさせて、現代風にアレンジして使いやすくなるよう工夫しています。また、世界中には素晴らしい家具がたくさんあるので、時代や国にこだわらず、色々な国の素晴らしいものがうまく融合していくような空間にしたいと。フランスのテーブルがあれば、アフリカのスツール、韓国のタンス…。自分たちが好きなものを少しずつ紹介できればと思っています。
ひとみさん:旅先で見つけたものや、出会いも大切にしています。カフェの器は私の好みで選んだり、お互いの好きな作家さんのものがほとんどです。お店で取り扱っているものは「一生もの」を選んでいて、一生大切にしたいものや時間など提供できればと思っています。器は欠ければ直して使えるし、天然素材のリネンは大切に着た後、最終的に土に還ります。プラスティック製品は置かず、人の温かみを感じるものを普段の生活でも取り入れています。そして、一番大切な一生ものは「自分自身」ということで自然食品を置いたり、発酵あんこや無農薬珈琲など身体に優しいものをご用意しています。
——お店でのお二人の役割分担は?
隆法さん:僕は買い付けと店内のディレクションをやっています。あとはイベントのコンセプトやイメージを作ったりですかね。
ひとみさん:私は、カフェ全般と接客ですね。
——カフェのメニューにはどんなものがありますか?
ひとみさん:飲み物は、自家焙煎コーヒーと、地蔵庵用にブレンドしていただいた紅茶・チャイなどがあります。無農薬のコーヒー豆を仕入れて、それを手回しの焙煎機で主人が焙煎しています。私たちはコーヒーが好きで、コーヒーの勉強はしてきましたが、紅茶はよく分からなくて。でも、お客様の中にはコーヒーを飲めないかたもいらっしゃるので、美味しい紅茶があればいいなと思っていたところにチェレスタティーのはるみさんとのご縁があり、オリジナルの紅茶2種類とチャイの茶葉をご提供いただいています。はるみさんは自ら茶畑を訪問したり、本当に行動力のある素晴らしいかたです。すべて無農薬の茶葉で、美味しいのはもちろん、お薬みたいですよ。私たちも毎朝チェレスタティーのお茶を飲んでいますけど、体調の悪い時など、飲むと本当に元気になります。
その他に、季節の果物を使った餡蜜などのスイーツをご用意しています。白玉・アイスクリーム・あんこは手作りで、あんこは砂糖を使わず米麴だけで甘さを出しています。
——無農薬や砂糖不使用など、健康にとても配慮されていますね?
ひとみさん:自分たちが昔からマクロビオティック(穀物や野菜など日本の伝統食をベースとした食事方法)やオーガニックに興味を持っていて、普段自分たちが食べるものも、極力無農薬の野菜だったり、素材のいいものをと思っています。無農薬野菜に美味しい塩があれば、もう充分美味しいお料理ができるみたいな。家庭でのお料理もシンプルなものが多いかな。私たちの要素はそういうところからきていますね。
——オープンして4年が経ちましたが、振り返ってみてどうですか?
隆法さん:一番ありがたいのは、やっぱりご縁です。お店を始めたからこそ出会えた素晴らしい方々がいます。出会いを通じて自分たちの見解や視野も広がりました。そういう方々と一緒にお仕事させていただくのは、すごく楽しい時間でもありますし、とてもありがたいことです。昨年12月の展示をやらせていただいた長崎県在住の茶器作家さんは、行田のこの土地をとても気に入ってくださって、家族ぐるみのお付き合いができたり、そういうきっかけとなったことが私としては本当に嬉しく思います。
——オープン当時はちょうどコロナ禍でしたか?
ひとみさん:緊急事態宣言が始まった2020年に、この家が建って母屋から引っ越して、その年の11月にまずギャラリーだけオープンして、それから半年後にカフェを始めました。
隆法さん:コロナ禍ということもあり宣伝もほぼせず、お檀家さんにもほとんどお伝えしなかったので、知らなかったというかたも多かったですね。当時は、社会的にも人間関係的にも分断されていくのが目に見えて分かっていて、閉塞していく世の中に危機感がありました。周囲に精神的に病んでいってしまうかたもいらっしゃったり。何かお寺としても自分たちとしても、意思を伝えられる様な場を小さくても持っていようと、この店を少しずつオープンしていきました。今もそうですけど、過剰に広告もしていないので、静かな隠れ家みたいな感じで来ていただけるかたも多いですね。
——そんな場所って素敵ですね!
隆法さん:展示販売やカフェもとても大事なんですけど、それ以上にコミュニティの必要性を感じています。嬉しいことに、お子さんがすごく楽しんでくれるんですよね。親御さんは、車通りの多い道から1本入っているので安心して遊ばせられるし、ブランコもあって公園に行くよりここに来たいと言ってくれています。
ひとみさん:墓地の奥に竹林があり、その整備した竹で昨年の春に主人がブランコを作りました。花まつり(お釈迦様の誕生日)の時は、マルシェもやりましたね。お寺とコミュニティを繋げていけたらいいなと思って。
隆法さん:昔は、文化や芸術の発信もお寺の一つの役目でした。今は、お寺って用事がないと来るところじゃないみたいなイメージがあるかもしれませんが、花を見に来たり、ただ遊びに来るだけでもいいと思うんです。
——どんな展示やイベントがありますか?
隆法さん:アトリエふわりさんという、リネンを中心に天然素材を使った洋服のデザイナーさんがいらして、そのデザイナーさんはアジアの女性や少数民族に対する支援をされています。その活動や想いに惹かれ、お付合いさせていただいています。私たちもできることは協力していきたいと、春・夏・秋の年に3回定期的にアトリエふわりさんのコレクションをやっています。その中で、今年は1月に「背守り」の展示もしますので、年間スケジュールの多くを占めていますね。その他に陶器やグラスの企画展もやっています。
ひとみさん:昨春は、花まつりでのマルシェ、子供の日に土で絵を描くワークショップ、その他にチェレスタティーさんプロデュースのティーパーティーなど野外でのイベントがメインでした。それに加えて、今年は尺八奏者ブルースさんのコンサートも5月に予定しています。夏はお盆があるので、お寺のお仕事に注力し、9月頃から徐々にお店の中で芸術の秋的な展示を始める予定です。
——今後の展望や目標がありましたら教えてください。
隆法さん:僕は今、竹林の環境整備に力を入れています。竹林を整備した時に出た竹を資材として何か活用できないかということで、竹のブランコを作ってみたり、次のアプローチをするための準備をしています。竹という資源の活用方法にすごく魅力を感じていて、資源として見直されれば、放置竹林を減らしていけるんじゃないかと思うんですよね。
また、人と人とが大きい範囲でつながれなくても、小さなコミュニティを作っていって、その中で循環させるようなことができればと考えています。自然が多いということは、色々な可能性もありますよね。
——先々への想いもありますよね?
隆法さん:ここは行田の中でも特に過疎地域なんです。このまま過疎が進行してしまうと、村から子供の声が聞こえなくなるのではと危惧しています。小学校も合併して星宮小学校がなくなり、星宮という地名自体がなくなってしまう危機感もあり、この土地の魅力を発信したいという想いがあります。
空き家問題も深刻で、風化が進んでいるのが現状です。昔から残っている家は貴重で、リノベーションなどをして新しくそこに価値を生むこともできると思うんですよ。それをうまくパッケージングできれば、新しくお店を開きたいとか、移住したいという人も出てきてくれるんじゃないかと。自分たちの想いや取り組みを発信していけば、魅力として受け止めてくれる人もいるはずなので、発信することが大事だと思っています。
——街と一緒に取り組んでいけそうな課題ですね!
ひとみさん:一緒にコミュニティを作っていける仲間が増えていったら嬉しいですね。色々な得意分野の人たちが集まって、村みたいにもっと広がるといいなって。
隆法さん:空間の有効利用などは自分の得意分野でもあると思うので、お声がけいただければ、お力になることができるかなと思っています。一人では限界があるけれど、仲間と一緒にやっていくことでの化学反応的な相乗効果は大きいですよね。
大人が本気で子供たちのことを考えて、もっと良い時代にしていき、子供たちが幸せで住みやすい行田になればいいなと願っています。
星ノ宮 地蔵庵
埼玉県行田市上池守728 持宝院内
048-578-8149
営業時間:10:00~17:00
定休日:不定休となりますので、インスタグラムをご確認ください
Instagram https://www.instagram.com/jizouan/