梨と歩み、農業の未来を拓く「はせがわ農園」

人図鑑

はせがわ農園
長谷川 浩さん

事業内容
米、麦、梨、大豆の生産・販売
加工品の販売

プロフィール
行田生まれ行田育ち。東京農業大学卒業後、埼玉県庁の農業上級職に就き、梨農家への技術・情報指導の仕事を18年間勤める。その間、県庁からの派遣で青年海外協力隊員として、2年間タイ北部地域で山岳民族への果樹栽培の支援に携わる。平成20年県庁を退職し、就農する。平成24年に法人化して株式会社はせがわ農園とし、直売所を設立。

——どのくらい前から続いている農家なんですか?

昨年三方領知替200年だったけど、その200年前にお殿様の家来としてついてきたのがうちの祖先です。それが行田に根付いて長谷川家として農家が始まり、僕が14代目なのかな。

——どんな学生時代を過ごされましたか?

小・中学校は行田で、高校は羽生第一へ行きました。ほんわかした高校で、すごく楽しかったですよね。幼い頃から農家の後継ぎというのをはめられるのが嫌で、どこの誰でもない一個人として過ごせるところに行きたくて、東京世田谷にある東京農大に進学し、東京で下宿しました。

大学に入ると、家業が農家っていう自分と同じ立場の友達が初めてできて、自分は家を出たくて東京に来たけど、同級生で「俺帰ったらメロンやる!」って目標を持っている仲間に出会って意識が変わりましたね。

——埼玉県庁に就職したのはなぜですか?

当時は日本中バブルに浮かれていて、就職は民間全盛だったんです。初任給なんかも全然違うから公務員は人気のない時代でね、自分も公務員を目指していたわけじゃなかった。姉弟のなかで自分だけ東京に下宿させてもらったから、卒業後は行田の自宅から通って仕事をしようと就職活動したんだけど、長男だから自宅から通いたいって面接で言うと、どこも内定をもらえませんでした。そんな時に大学の研究室の教授から埼玉県庁の農業上級職を勧められて、受けて採用になったという感じですね。

——脱サラして、就農するきっかけとなったのは?

僕が県職員のまま青年海外協力隊員としてタイにいる間の平成11年、父が癌で59歳で亡くなったんです。どうしようかとずっと考えながら、それでも父が亡くなってから8年くらいは仕事を続けました。祖父と母が残されて農地の面倒を見ていたけど、祖父も病気になり自分も覚悟を決めました。

タイで2年間過ごした中で、国民から愛されている国王様がタイの農業をとても大事にしていて、国民が農業を大切にしているという文化に触れてきました。帰国して日本と比べてみると、日本では農業が疎かになっているなって感じたんです。日本もタイみたいに農業を大事にしなくちゃいけないっていう思いがあって、人生一度きりなら悔いが残らないことをやったほうがいいと、安定している公務員の生活に区切りを付けて、ここで農業を志してやってみようと決意しました。

もう一つは、白岡・菖蒲・久喜の地域に同じ世代の若手梨農家さんがいて、仲良くしてもらって、みんな人生かけてすごく頑張ってるなって、そういう仲間がいたのも大きいかな。

——従来の米麦栽培に加えて、なぜ梨の栽培を始めようと思ったのですか?

就農するにあたって、先代がやっているものをそのままやるだけじゃなくて、第2の人生の中でも自分らしさを出したいと思って選んだのが梨です。県内の梨農家さんの中には、市場価格の3倍くらいの値段で直売していて、売上もあるし、後継者も残っていて、大きな経営をやっているところがあるんです。自分もやるならそういう戦略を持って、行田にないもので、自分に価格決定権があるもの、値段が高くてもお客さんに喜ばれるもの、美味しいって言ってもらえるもの、と考えて梨を選びました。県職員時代に学んだ技術を活かしていけばやれるかなと思って始めました。

——梨を収穫・販売できるまでの期間や工程について教えてください。

梨の花は桜の2週間後くらいに満開になります。梨は、同じ品種の花粉では実がつきません。幸水には幸水以外の花粉を交配してあげないと実がならないのです。実がなる親和性のある品種の花を摘んできて花粉をとって、それを手作業でつけていく作業をします。花が満開の時に交配して、2週間くらいすると指の頭くらいの大きさの実がなるので、そうしたら形の悪いものや小さいもの、余分なものを取り除いて、一つの花のところに一つの実にする摘果という作業をします。4月中旬頃に交配して、幸水の収穫が8月の頭くらいです。

——はせがわ農園さんではどんな種類の梨をつくっているのですか?

今は5種類で、収穫順に「こうすい」「さいぎょく」「豊水ほうすい」「あきづき」、最後に「かん」です。

——長谷川さんが好きなのは?

僕ね、酸っぱいものが好きなので、やっぱり豊水かな。今年みたいに晴れ年の豊水は絶品です!甘さと酸味のバランスが良くて、豊水が一番好きですね。

——梨を作るときにこだわっている点は?

作るときというより、売るときが大事だと思っています。僕は、県職員時代に色々な梨農家さんを見てきて、最終的には売る技術なんだなって。作るのはやっぱり太陽とか天候とかで左右される部分も大きくて、そこは人間にはどうにもできない。人は農作物が育つのを手助けしてあげるだけで、主導はできないと思っています。主導できるのは何かというと、売り方です。農協に売って終わりの農家さんもいれば、独自で直売所を開いて、味のいいものを売って口コミで広がってお客さんがついている農家さんも見てきたので、じゃあ自分はどうやって売っていくのかをずっと追及してきました。

——特に追及してきたのはどんなことですか?

一つはどのタイミングで採るかということです。市場に出す場合は、お客さんの手に渡るまでに時間がかかるので、青いうちに採るんです。そうすると、甘くないとか果肉が硬いとかの不都合が出てきたりします。でも、自分の直売所で売るのであれば、本当に今日食べて美味しいというところまで待って採ることができますよね。そして、早朝6~8時に採ってきた梨をエアコン完備の直売所に置いておけば梨があたたまることが無いわけです。梨はあたたまってしまったらダメなんですよ。朝採れのひんやりした梨を、その冷たさのまま直売所に入れて、温度を上げないようにしておくことで、そこから5日から1週間でも美味しく、傷まないで食べられます。僕の記憶では、梨の直売所でエアコンの効く密閉型のお店を作ったのは、埼玉では僕が最初だと思います。

もう一つは、梨の糖度を測るということです。見た目では同じでも、糖度の低い梨というのがある程度出てきます。そういう甘くない梨を気づかずに売ってしまうと、お客さんには満足してもらえないですよね。それを何とかしたいと思って、試行錯誤して最終的に平成29年に導入したのがクボタのフルーツセレクターという非破壊糖度計です。梨をこの機械に載せると糖度を測定します。他社製品と比べて誤差がないんです。これを県内の梨農家で初めて導入し、糖度12以上のものだけを販売するようにしてから品質が安定し、クレームが皆無となりましたね。

——ご苦労されていることは?

こんな取り組みをしながら、はせがわ農園の梨を評価していただけるようになって嬉しいのは山々なんだけど、お盆前は開店前にお客さんが50人以上も並ぶようになってしまって。できるだけお客さんを平等に扱いたいから、うちは袋ものの予約は取っていません。12時に直売所を開けて、従来は午後3時頃まで商品があったのに、今は1時間で完売とか…。駐車場も限られているし、加熱しすぎてしまっている感じがしています。もう少し、ゆっくりやれないかなと思っていて。来ていただいたお客さんが買えないことがないようなお店に変えていこうって今色々考えています。

——加工品も手掛けておられますよね?

梨サイダー、梨アイスバー、梨カレーがあって、すべて製造委託です。梨を食べられる期間って一年間のうち約2カ月しかないから、残りの10カ月でも梨好きの方に楽しんでもらいたいって意味と、会社の宣伝も兼ねて加工品をやっています。

加工品に関しては、製造技術を持ったプロと組んで生まれるプラスアルファなところがすごく面白いと思います。提供しているのは同じ梨なのに、自分が想像もつかない全然違うものになって帰ってきて、それをみんなが美味しいって言ってくれるので、続けていこうと思っています。梨サイダーは、どこで知っていただいたのか、先方からオファーが来て、所沢の角川ミュージアムや飯能のムーミンバレーパークのお土産ショップでも販売しています。

——子ども食堂に梨を提供されているとお聞きしましたが。

きっかけは昨年6月28日、行田に突風と雹が降って、梨園の網が一部剥がれて、その影響で傷のついた梨がいっぱい出てしまったんです。傷ものとして安価で売ることはできたけど、パートさんに説明してもらうのとか大変だし、お店のイメージダウンにもなると思い売らないと決めたんです。でも美味しく食べられるし、どうするべきかと考えて、熊谷で子ども食堂を運営している方に連絡をとり、傷梨を寄付させていただきました。子ども食堂同士のネットワークがあって15か所位の食堂にうちの傷梨が届いて、美味しかったって反応をいただいて。実際に熊谷のなないろ食堂さんへ見学にも行ってきました。そこは毎週月水金、約200個のお弁当をボランティアの方達が作って配布しているんです。うちが提供した梨も綺麗に剥いて切って小さいパックひとつひとつにつめて、こんな量を本当にすごい熱意で頭がさがるなと思いました。色々な事情で、食事に困っているご家族やこども達に少しでも食べ物が届くように、僕ができることはやっていきたいと思って、子ども食堂への支援を続けています。

そして今年、子ども食堂などの活動を支援する、行田こども居場所ネットワークが発足しましたが、その立ち上げにも関わらせてもらいました。

——今後の展望などありましたら、教えてください。

梨での挑戦経験を米や麦や大豆に活かそうと考えて、誰もやっていないものにチャレンジしています。具体的には、ビール原料の国産モルト、パン用の米粉、SOYJOYのような製品に使われている大豆粉の販売です。
モルトに関しては、国内流通の99%が外国産で、1%しか国内産がないのだから、裏を返せばそこに広大な市場がありますよね。
米粉・大豆粉については、近隣に高い製粉技術を持ったメーカーさんがいるので、製粉メーカーさんと組んでクオリティの高い原料を作り、販売展開していきたいですよね。そういう技術でつくられた米粉・大豆粉を使った食品を開発してくれる食品加工メーカーさんが出てきてくれたらいいなと思っています。それって、すごく将来性のあることだなって。やっと辿り着いたところで、まだ道半ばですけどね。

はせがわ農園
埼玉県行田市谷郷308-1
048-556-6718
梨販売期間(8月~9月)のみ
営業日:火・木・土・日の12:00~18:00
https://www.hasegawa-farm.net/
https://page.line.me/810oswud?openQrModal=true

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